もうだめだ……




葵はモテる。
とてつもなくモテる。
しかし彼女は困っている。
モテる相手が問題なのだ。
同性にモテる。ものすごく。
その容貌は性別に関係なく人目を集めるのだが、男に言い寄られる事はあまりない。
曰く、性格が鬼門なのだとか。
鑑賞するのにはうってつけであるが、近寄るのは御免だ。
騎士院の若い者共は皆口を揃えてそう言う。
彼女に同性愛の気がない事はよく知っているので、油断していた。
ライバルなど居ないとのんびりと構えていたのがいけなかったのだ。
その事を今この時に後悔する事になろうとは。
彼ら――アーク・ハリントンとリュート・ウィルソンは思わぬ伏兵の存在に全く気付いていなかったのである。



「おま、おま、お前……!!」
アークはあんぐりと口を開き、わなわなと指を指している。
リュートも似た様な表情で、ぼんやりとソレを眺めていた。
「何を見ている」
指を指された紅い髪をした男は、面倒臭げにたった一言そう呟いた。
場所は騎士院。
詳しく言えば葵の部屋。
更に言えば男はベットの上に座っており、その傍らには葵が無防備な格好でのんきに寝こけていた。
この状況で彼らがどんな考えに思い至ったのか、想像に難くはないだろう。
「……ていうか、貴方誰ですか」
リュートは相も変わらずぼんやりとしたままそう尋ねた。
……やや眼光は鋭い気もするが。
「そうだよ!!お前誰だ!!」
こちらはこちらで血気盛んである。
が、男はふん、と鼻を鳴らしただけで何も答えなかった。
「何とか言えよこの野郎!!」
「言葉を発せれば我に何か得があるのか」
「そういう問題じゃねえだろ!!お前葵に何かしたのか!?」
返答次第では使う事になるであろう腰の剣に手をやる。
「ちょ、ちょっとアーク!!落ち着きなよ!!」
「うるせぇ!!お前だって葵がこいつに何かされてたら許せるのか!?」
はた、とリュートの動きが止まる。
しばし考え、
「……無理、かな」
晴れやかな笑顔で言い放った。
「と、いう事で質問に答えろ!!」
が、またも男は答えず楽しそうに笑い、言った。
「何だ。ぬしら葵の事が好きなのか。物好きな奴等だ」
ぐっ、と言葉に詰まる2人。
それは彼らに言ってはならない一言だった。
自分達の関係を壊さない為の。
「どうだっていいだろう!!」
「よくないな」
「何故ですか?」
にやりと口の端を上げ、男がその質問に答えようとしたその時、
「……やかましいぞ」
むっくりと葵が起き出していた。
「何じゃ何じゃ。人が寝ておる横でやかましい」
「あ、葵!!こいつ誰だよ!?」
「む?何故アークとリュートがここに居るのじゃ?」
「起こしに来たんだよ。それよりこいつ誰だ!!」
ふぁ、と欠伸をすると質問に答えた。
「紅丸じゃ」
「べにまるぅ?」
「誰、それ」
「ほれ、前に話したであろう?私が探しておった刀だ」
そんな事も聞いた気がする。
聞いた気もするが。
「……そいつ人間じゃん」
「人ではない。妖だ」
さっぱり分からない。
「探してたのは刀なんだよね」
「ああ」
「でもその人は人間だよね」
「だから妖だと言うに」
堂々巡り。
「……だからぁ!!何で刀が人なんだよ!!」
「こやつは刀であり妖なのだ」
「…………」
頭を抱えるアークに、どうしたものかと考え込むリュート。
と、
「頭の悪い奴等よのう」
紅丸が呆れた様に言い放つ。
「というか紅丸。何故お主がここに居る」
「急に暇になったから来た」
「お主が暇になるワケがなかろう!!大方勝手に抜け出してきたのだろう!?とっとと帰れ!迷惑を被るのはソロイ殿なのだぞ!!」
何故そこにソロイが出てくるのだろうか。
首を傾げるアークとリュートに葵が言った。
「お主らも出て行け。着替える」


「…………」
「…………」
「…………」
沈黙が降り立つ。
アークは紅丸を睨み付け、リュートは困った様に立ちすくみ、紅丸はそんな2人を意に介さぬ様子で腕を組みいつもの様に無表情でつっ立っていた。
「……そういえば、さっきは何を言おうとしてたんですか?」
その場を取り繕う様にリュートが尋ねる。
何も答えないだろうと予想していた。
そして予想通りの行動と、予想だにしなかった行動を一緒にした。
「へ?」
何も答えず、その場から駆け出したのだ。
「ちょ……っ!!待てよ!!」
追いかけた先には、
「げ!!!」
何故かソロイが居た。
「な、何でソロイ様がここに……」
ソロイは答えない。
「あの、ここに紅い髪をした男の人が来ませんでしたか?」
「来てないな」
首を傾げる。
確かにここに走っていったのに。
「お前達はまたサボっていたのか」
アークと一緒にされるのは心外だとリュートは思ったが、口には出さなかった。
「いや、そういうワケじゃないんですけど」
「すいません、すぐに戻りますから」
そう言うと、首を傾げながらその場を離れていった。


口元を歪める。
そこにソロイの姿は無く、居たのは紅丸だった。
おもしろいことになったと思う。
先ほどの答えを言った。
「我も葵の事が好きだからだ」
ただ彼らのそれとは違い、例えるなら娘や妹、そういう存在に向けられる思いに似ていたのだけれど。


果たして異界の姫を手に入れるのは、誰?


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