何が何やら書いてるうちによく分からなくなってしまった



この国に来てから船に乗るのは初めてであった。
異国の国の異国に行く。その事がなんだか不思議で。
思えばあの時。騎士になると決めたあの時。
あれはこの国に居る理由が欲しかったのだと思う。
日本へ帰る方法。それを探したかった。
けれど。
(忙しくて帰る方法を探す事などできなくなったしのう。やはり小船を漕いででも探すべきじゃったか……)
この国に残った理由が果たせない。
この国に残るための手段の為に。
彼女はアロランディア初の女騎士となり、隊を任される程に出世していた。
階級は紫紺。男でもとるのが難しい階級。
海を見つめる。
そう、あの時あの渦に巻き込まれてこの国に来た。
もう一度あの渦が現れたら帰る事が出来るかもしれない。
渦、渦、渦。
渦を探す。
(何処かにないものか……)
「おい葵!!何してんだ?」
「うわ!!」
いきなり声をかけられ、身を乗り出していた彼女は海に落ちそうになる。
「うわ!!危ねぇな!!何やってんだよ!!」
声をかけた人物が慌てて引っ張りあげる。
彼女は振り向き、その人物――アークに怒鳴りつける。
「おぬしがいきなり声をかけるからであろう!?失礼な所はいつまでも直らんな」
「なんだと!?そんなに身乗り出してるお前も悪いだろ!!魚でも見てたのか?」
「……おぬしには関係なかろう」
「何だよその言い方」
「やかましい。……渦を、探していたのだ」
「渦?」
こくりと頷く。
「私はあの時渦に巻き込まれてここまで来た。もう一度巻き込まれれば帰れるやもしれんと思ってな」
その言葉を聞き、何故かアークの顔は不機嫌そうになる。
「……まだ、帰りたいのか?」
「当たり前であろう。その為にアロランディアに残ったのだ」
「でもさ、この国だって悪くねえだろ?知り合いだって沢山出来たんだし、もう生活にも不自由しないだろ?だったらこのままこの国に居るのも……」
首を振る。
「それも悪くないとも思う。だが、ここは私の国ではないのだ。私は私の居るべき国に帰りたい」
「…………」
「私はこの国の人間ではない。この国も私の国ではない。ならば帰るしかなかろう?」
「じゃあ帰れば?帰れるならな」
「……何じゃと?」
「出来もしない事をいつまでもするって言い続けるなんて馬鹿らしい。帰れるなら帰ってみやがれ」
「……帰るさ。必ず。おぬしにそこまで言われずとも帰る」
「…………」
「心配せずとも、居なくなるさ、この国から。あぬしの前から」
「誰も居なくなって欲しいなんて……」
小声で呟くが、それは彼女の耳には届かない。
「しかし、私はそこまでおぬしに嫌われておったか……」
「な……っ。誰がんな事言った!!」
「違うのか?」
「違う!!」
すると彼女はむっとする。
「ならばそこまで言わずともよかろう。今の言葉はちと酷すぎる。私でも傷ついた」
「…………ごめん」
「うむ、分かればよいのじゃ。さて、私はもう行く。部下を鍛えねばならぬからな」
「ああ、じゃあな」
「うむ」


去り行く背中を見つめながら思う。
どうして帰って欲しくない、その一言が言えないのだろうと。
ため息をつく。
素直になれない自分が恨めしい。
あの日。
星の娘の選定期間が終わったあの日。
「騎士になれ」
彼女にそう言ったのは、自分の目の前から彼女が消えるのが耐えられないと思ったから。
(というか、俺の側に居て欲しかったからなんだけど)
苦笑する。
女に追いかけられる事はあっても、追いかける側になるなんて考えてもみなかった。
悩める少年は星空の下、壮大なため息をつき続けるのだった。



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