視力





「眼鏡、かけないの?」
ふと彼女が呟いた。
そんな事を言われたのは初めてなので、僕は少しだけ驚き、尋ねる。
「今更だね。どうして?」
「うん。不便じゃない?」
「さあ……。考えた事もないし、感じた事もないから、不便ではないと思うし、必要とも思わない」
そう答えると彼女は「ふうん」と呟いて、冷蔵庫を開けた。
僕は視力が悪い。
薄ぼんやりとしか世界を見る事が出来ないが、眼鏡もコンタクトもしていない。
眼鏡は一応持ってはいるのだが、鮮明すぎる世界が気持ち悪くて一度しか使っていない。
僕はそんなにはっきりと世界を見れなくてもいい。必要なもの以外は視界に入れたくないのかもしれない。
一度友達にその話をした事があった。
一人は「お前って結構冷たいんだな」と言い、もう一人は「俺は必要なもの?それとも、不必要なもの?」と言った。
「私は貴方にとって必要かしら」
彼女も僕にそう尋ねた。
僕は返事をし、そうして付き合い始めたのだ。
「けどまあ……」
僕は彼女の頬に触れ、言った。






「本音で言うと、君の顔を近くで見たいだけなのかもしれないな」



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