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「ジェシカのバカ、阿呆、間抜け、考えなし」 レインの部屋に足を踏み入れた途端、はっきりとした強い口調で悪態をつかれた。 流石にむっとするが、それでも面と向かって怒る事は出来ない。 悪いのは自分だ、レインが怒るのも無理はない。無理はないが、ジェシカは少し驚いていた。彼女にこうもはっきりと怒りをあらわにされたのは初めてだったのだ。意外に思う。 レインはまだベッドから起き上がれないのか、何日か前にこの部屋に訪れた時と変わらずに寝転がっている。ベッドサイドには椅子が置かれ、サラが座っていた。 「だからさ、本当ごめんってば。悪かったと思ってる、ちゃんと謝ってるじゃん」 「ジェシカの場合誠意が足りない。私を放ってアドルの面倒ばっかり見てる癖に。サラ、ジェシカ追い出して」 謝罪の言葉を口にしても、そんな冷たい言葉しか返ってこない。命じられたサラの方はそんな事をするつもりはないのか、「いらっしゃい、ジェシカさん」なんて笑顔で応対してくれているのだけど。 サラにレインの看病を頼んだのはジェシカだった。レインとアドルがピセラの実を食べ、その面倒を見なければならなくなった。けれどジェシカは一人だ、2人も面倒を見られない。そこでサラに頼んでみれば、ふたつ返事で引き受けてくれた。流石サラは優しいなぁ、なんてジェシカは思う。 「で、レインの具合はどう?」 レインに聞いても答えてくれないだろうと、サラに尋ねてみる。 「うん、あと3日くらいしたら歩けるようになるってサディーヤさんが」 「嘘、もうそんなに回復したの?アドルなんてまだお腹痛い、お腹痛いって騒いでるよ」 けれどそれだけ回復したのならそろそろいいかなと思う。 「アドルは体力ないから、私の方が治りが早くても何の不思議もない。ねぇ、ジェシカはあんな男のどこがいいわけ?」 憮然とした表情でレインが口を挟み、ジェシカの頬が一瞬にして赤く染まった。 「どっ、どこってあたしは別にアドルの事なんて……!」 「……うわぁ、何その分かりやすすぎる反応。あんな人に心配をかける為だけに存在してるような男のどこがいいの?私にはさっぱり分からない」 仮にも双子の弟に対してその言い草はないんじゃないかと少し思いながら、ジェシカは反論する。 「だからそういうんじゃないってば!」 「じゃあなんで私じゃなくてアドルの面倒ばっかり見てるの?」 「そ、それはほら、レインも言ったようにアドルの方が体力ないし、大変なんじゃないかと思っただけで、」 「私が言うまでジェシカ、その事に気付いてなかった気がするんだけど」 「き、気付いてたよ!」 「ふーん。まぁどうでもいいか、そんな事」 そんな事って何だそんな事って。そんな事ならこんなに問い詰めなくていいじゃないか。 「えっと、結局どういうお話だったのかな?」 首を傾げ、サラがレインに尋ねる。 分からなかったらそのままにしておけばいい、んな事聞かなくていい!とばかりにジェシカは焦り、慌てて口を開くが、 「ジェシカが我が愚弟に恋愛感情を抱いてるって話」 言葉を発する前にレインがさも面倒臭げに答えてしまっていた。 「だからそういうんじゃ……!」 否定の言葉を口にすれど、顔を真っ赤にしながらでは意味はなく。 「え、ジェシカさんがアドルさんを?そうだったんだ……」 「うん、そうだったの」 「頑張ってね、ジェシカさん。あたし応援するね」 なんて全く邪気のない、心からの善意の笑顔を見せられれば反論する気も失せてしまう。 ごにょごにょと言葉にならない声を口の中で転がしながら、俯くしかないジェシカである。 「で、結局ジェシカは何しに来たの?自分はアドルが好きですーって宣言しに来たの?」 「あーもうその話はいいからっ!」 半ば叫ぶようにレインに言い放つ。 なんだかもう面倒くさくなってきた。このまま帰ってしまおうかとも思うが、そういうわけにもいかないだろう。ジェシカは妙な所で律儀であった。 「あのさ、あたしも流石にあんたの面倒を見ないのはまずいと思ってたの。こうなったのはあたしの所為だしさ、何かお詫びしなきゃって」 「それで?」 「それでやっとそのお詫びを考え付いたってわけ」 「だからそのお詫びって何」 若干イラついたように、レインは聞き返す。 「男」 「はあ?」 意味が分からないとばかりに間抜け面を晒すレインを見、ジェシカは少しだけ先ほどの鬱憤が晴れた気がした。彼女のこんな顔を見るのは初めてだ、笑える。 「やっぱり同じ看病して貰うなら男の方がいいでしょ?大丈夫だって、今のレインなら無敵だよ。いっつも飄々として何考えてのか分かんないあんたが見せる儚げな姿!あいつら馬鹿だからさ、ころっと騙されてくれるって。あ、でもあいつはちょっと分かんないかな……」 「……何それ。私は別に、」 「大丈夫大丈夫遠慮しない。時間はあるんだし、ゆっくり攻略しなよ」 「攻略って、意味が分からない。ジェシカ、」 レインの言葉を無視し、サラに向き直る。 「って事でサラ、今までありがとうね。今度何かお礼するよ」 「ううん、お礼なんていいよ」 「さっすがサラ、優しいね。って事で、あんたのお目当ての男、連れてくるね。楽しみにしてなよ」 「ジェシカ!」 その背にレインの怒鳴り声を受けながら、ジェシカとサラは部屋を後にした。 扉を閉めてもレインの声が聞こえてくる。相変わらず薄い壁だ。 「ねぇ、ジェシカさん」 「ん?何?」 「レインさんの看病、これからは男の人がするの?」 「そうだよ」 「でも、レインさんあんまり乗り気じゃなかったみたいだよ。大丈夫?」 まずい。サラに疑われている。 「ああ、大丈夫大丈夫。あれは照れてるだけだって。本当はすっごく喜んでるから」 「そうなんだ、それなら安心だね」 あっさりと納得してしまう。ジェシカは少し唖然とした。 サラは優しい。とても優しいし良い子だが、ジェシカは時々彼女の事が分からなくなる。純粋すぎるのだろうか、将来変な男に騙されなければいいのだが。 「それじゃああたし、もう行くね」 「あ、うん。本当ありがとね、助かったよ」 「ううん、気にしないで」 笑顔を浮かべ、サラは宿舎を出て行った。また酒場の手伝いに行くのだろうか。 「さて、と」 気を取り直し、ジェシカは少し考える。 目当ての人物はどこにいるだろう。町にいてくれればいいが、もし遺跡に潜っていたら少々厄介だ。 町にいるのなら奴は大抵は部屋にいる……気がする。奴とはあまり親しくないので正直に言えばよく分からないのだが、レインがそんなような事を言っていたような言ってなかったような。 思考を打ち切り、とりあえずは部屋に向かってみる事にした。ここから一番近いし、いなかったらいなかったらでその時考えよう。そう決める。適当極まりないが、ジェシカはそういう子であった。 そうと決まれば後は行動するだけ、階段へと歩を進め、 「あ」 ……進めた途端、目当ての人物が外へと繋がる扉から入ってきた。 「オルフェウス!良かった、丁度探してたとこだったんだ」 言いながら、小走りで彼の元へと向かう。 「おや、ぼくを?光栄だなぁ、君みたいな可愛い子に探してもらえるなんて。何か用でもあるんですか?」 にこにこといつも通りの胡散臭い笑みを浮かべ、オルフェウスはそう尋ねた。 「うん、ちょっと頼みたい事があってさ」 「珍しいですね、君がぼくに頼みごとなんて。いいですよ、何でも言って下さい。どんな頼みでも聞きますよ。ぼくがそれを達成できるかどうかは別問題ですけど」 オルフェウスは意外に背が高い。小柄なジェシカは自然と見上げる形になってしまう。 「あのさ、今のレインの状態は知ってるでしょ?」 「ええ、なんでも妙な果物を食べて身体を壊してしまったとか。心配してたんですよ」 レインの名を聞いた瞬間、浮かべる笑みはそのままに、けれどオルフェウスの瞳に微かに別の感情が浮かぶのをジェシカは見逃さなかった。 その感情が何なのかは、よく分からないのだけど。 「うん、それでさ、その看病を今までサラがしてたんだけど、あの子ちょっと用が出来ちゃって。だからあんたにレインの看病を頼みたいの」 「ぼくに……ですか?」 流石にオルフェウスも驚いたのだろうか、笑みが消えた。 「うん、頼むよ、お願い」 「それは……もしかして2人きりにしていただけるという事ですか?」 「ま、そういうこと。でも、まさか弱ってるレインに変な事しないよね」 肩をすくめ、一応釘をさしてみる。 「と、当然ですよ。ぼくみたいな紳士に向かってなんて事言うんですか」 オルフェウスの頬に一筋の汗が流れ落ちた。ジェシカは少し意外に思う。彼には珍しい、分かりやすすぎるうろたえ方だ。 「……ほんとのこと言うと、レインさえよければ何があってもいいんだけどね」 「あれ?いつもと反応が違いますね」 オルフェウスは不思議そうな顔をしている。無理もないだろう。けれどジェシカは本当にそう思っていた。 アドルには悪いが、結局選ぶのはレイン自身だ。例え弟であろうと友人であろうと、他人が口を出すべき問題ではない。 「レインって体力腕力はすごいけど、そういうとこ鈍そうじゃん。何考えてんのか分かんない所あるけど、割と自分の気持ちに鈍感そうっていうかさ。ただの勘だけど」 レインがオルフェウスに特別な感情を抱いているのは間違いないとジェシカは踏んでいる。ただ、その感情が恋なのかどうかはよく分からない。そして彼女はその感情を自覚してはいないような気がするのだ。本当に、勘でしかないのだが。 「それに、あんたの本気も知りたいし」 じっと、オルフェウスの瞳を見つめながら告げる。温度の感じられない瞳だ。 「本気……ですか?」 「うん。なんかあんたってさ、足の先から頭のてっぺんまで全部作り物臭いけど、つい最近、ちょっと雰囲気変わったような気がしてさ。別に態度が自然になったとかじゃなくて、何かを諦めたっていうか、自分の事どうでもよくなったっていうか……。特にレインの近くにいるときそれ感じるんだけど。それの正体も知りたいし」 ジェシカがオルフェウスにレインの看病をさせようとした大きな理由がそれだった。 最近……より正確に言えばレインが長い眠りから覚めた後、彼らの間に流れる空気が変わったとジェシカは感じていた。以前はどこか冗談めいた雰囲気だった。本当のものがなにひとつ存在しないような、けれどお互いそれを承知で楽しんでいるような。 だけど、今は。 「何の事でしょうかねえ……。最近便秘が治ったからでしょうか」 「まあなんでもいいや、とにかくよろしくね」 こちとら正直に答えてもらえるとはハナから思っていない。これは彼らの問題だ。 2人連れ立ってレインの部屋へと入る。 ジェシカの姿を視界に捉えた瞬間にレインは恐ろしい形相で口を開いたが、すぐに間抜け面へと変わった。 「……オルフェウス」 「どうも……」 挨拶を交わす2人の空気は、確かに以前とは違っている。 けれどそれをずっと眺めているわけにもいかない。 「じゃあレイン、思う存分オルフェウスに甘えてね」 これで自分の仕事は終わったのだ。ジェシカはさっさと部屋を後にした。 「勘のいい子だなあ……」 オルフェウスはジェシカが消えた扉を見つめ、そんな言葉を口にした。 「でも、なんだか逆にやりにくいですね……」 少し困ったような笑顔でレインに向き直る。どうしましょうね?とでも言いたげに。 ……最近、オルフェウスのこんな顔をよく見るようになったとレインは思う。それを嬉しいと思っているのか、悲しいと思っているのか自分でもよく分からなかった。 「看病」 「はい?」 「看病、オルフェウスがしてくれるの?」 「ええ、ジェシカさんに頼まれましたから」 そう、とだけ返事をして、それきりレインは黙り込む。 まさか本当に男を……しかもオルフェウスを連れてくるなんて思ってなかった。どう反応すればいいのか分からない。……どう反応すべきなのだろう。 「しかし看病と言っても何をすればいいのやら……。レインさん、何か気をつけておく事、ありますか?」 オルフェウスに尋ねられる。物思いに耽っていたレインは一瞬反応が遅れ、その事に焦った。慌てて口を開く。 「え、あ、サディーヤさんは水分は十分取れって言ってた。後は気をつけるような事、ないと思う」 「薬はこれですか?」 机の上に置いてある小さな瓶を指差し、オルフェウスは更に尋ねる。 「うん、そう。食後に飲むの」 「そうですか、分かりました。……それじゃあ、しばらくの間よろしくお願いしますね」 「あ、うん、こちらこそ」 それだけ言うとオルフェウスはベッドサイドの椅子に腰掛け、にっこりと微笑んだ。 「けど、このまま椅子に座ってるだけというのも面白くないですね。レインさんがよろしければリュートを持ってきてもいいですか?」 「リュート?うん、いいよ」 レインはあっさりと承諾した。 音楽の良し悪しなど分からないが、オルフェウスの演奏は好きだった。それが聞けるのだ、断る理由などない。 「ありがとうございます。それじゃあ、ちょっと失礼しますね。すぐに戻ってきますから」 「うん、いってらっしゃい」 立ち上がり、オルフェウスは部屋を出て行った。 残されたのはレインだけ。ひとつ、ため息を吐く。 何故だかオルフェウスと話すのは緊張する。以前はそんな事はなく、むしろ彼と話すのを楽しいと感じていたのだが。 ……いつからそうなったかなんて、考えなくても分かっていた。 あの日だ。長い眠りから覚めたあの日。教会から宿舎に戻ったあの日。 ……サディーヤさんの家で長い話を聞いた、あの日。 目を閉じる。あの時のオルフェウスの声、表情、言葉を思い浮かべる。克明に思い出す事が出来た。 あの時、レインは衝撃をあまり受けなかった。むしろ、ああなるほど、と心のどこかで納得していた。オルフェウスがどういう過程でああいう人間になったのか、合点がいった。 けれど何となく、これでオルフェウスと話すのは最後かもしれないとも思った。彼の過去を知った自分を、オルフェウスが今までと同じように接する事などないと思った。 けれどレインは翌日、オルフェウスの部屋へと向かっていた。 ただ一言、 「遺跡。一緒に来て」 そう告げた。 「いいですよ。ぼくがレインさんの頼みを断るはずないじゃないですか」 オルフェウスはいつもと変わらない笑顔でそう答えた。 けれど何故だろうか。 その笑顔はどこか……酷く悲しいものに思えてならなかった。 音楽が聞こえる。レインはゆっくりと瞼を開いた。 ぼんやりとした視界を動かし、そこに彼の姿を見つける。 「オルフェウス」 「ああ、すみません、起こしてしまいましたか?」 演奏を止め、オルフェウスに顔を覗き込まれる。 いつの間にか寝入ってしまっていたらしい。オルフェウスが戻ってきた事に気付かなかった。 目を擦り、ふるふると首を振る。 「平気、大丈夫。演奏、続けて」 「分かりました」 指で弦を弾き、音が生まれる。音が重なり曲を奏でる。 いつもと同じ曲。切ない旋律。 自分はこの曲を好きだと思う。……嫌いだとも思う。 悲しすぎる曲だ。以前はオルフェウスに似合わない曲だと思っていた。けれどもどこかでぴったりだとも思っていた気もする。 「オルフェウス」 「はい?」 返事をしながらも演奏は止めない。自分も止めて欲しくないと思っている。 「私、友達ごっこ楽しかったよ。今も楽しいと思ってる」 「はい」 オルフェウスの顔は見ないようにした。 彼は何故あの時自分の誘いを承諾したのだろうか。何故自分にあの話をしたのだろうか。 何故、彼は今ここにいるのだろうか。 考えても分からない。分かる筈がなかった。 けれども唐突に理解する。 何故あの時、自分はオルフェウスの部屋に向かったのか。その理由を。 「私、オルフェウスの事が好きなのかもしれない」 演奏が止まる。オルフェウスの顔は見ない。 そうなのかもしれない。自分はオルフェウスに恋愛感情を抱いているのかもしれない。けれど確信は出来なかった。 彼への興味を恋愛と履き違えているだけなのかもしれない。或いは同情しているだけなのか。自分で自分の感情がよく分からない。 だけど、それを彼に告げておくべきだと思った。それを聞き、彼が自分と関わる事をやめたとしても、それは仕方のない事なのだと。 「……光栄です。けれど君は男を見る目がありませんね」 長い沈黙の後、オルフェウスはそう口にした。 「うん、自分でもそう思う」 演奏が始まる。 悲しい曲。切ない曲。オルフェウスの曲。 ……今はそれを聞きたくないと思う。 「オルフェウス」 「はい」 「手、繋いでいい?」 適当にはぐらかされるだろうか。それとも自分からその言葉を取り消すような方向に誘導されるだろうか。 「……好きにして下さい」 けれど返ってきたのはそんな言葉だった。レインはその通りにした。 大きな手の平。硬い指先。 確かなぬくもり。 それらを感じる。 何故だろうか……少し、泣きたくなった。 「マジかよ!?」 アドルの悲痛な声が響き、流石にジェシカも可哀想な事をしたと罪悪感を感じ始めていた。けれど後悔はしていない。 「ジェシカも知ってるだろう?俺はレインの相手はオルフェウスだけは嫌なんだって。なのになんでレインの看病をよりによってオルフェウスに頼むんだよう!」 だようって。18の男が言う台詞じゃないだろうと思いながら、ジェシカは反論する。 「いいじゃん別に。アドルはレインに幸せになってほしくないの?」 「や、そりゃなって欲しいけどさ、相手がオルフェウスじゃなくたっていいだろう?」 「相手が好きな男じゃなきゃ意味ないじゃん」 ぴたりとアドルの動きが止まる。ぎぎぎと音が出そうな動きで首を動かし、ジェシカを見る。不気味極まりない。 「……レインはオルフェウスの事好きなのか?冗談だろ……?」 「んー、そのへんはあたしもよく分かんないんだけどさ、特別な感情を持ってるのは間違いないと思うな」 「うがーーーーーー!勘弁してくれっ!」 今度はごろごろとベッドの上を転げ回る。が、すぐにその動きは止まった。 「は、腹痛い……」 うずくまるアドルに呆れる。 「あーあー、そんなに動くからだよ。本っ当馬鹿だよね、あんた」 「自覚はしてまーす……。あー、ちきしょう、これでレインとオルフェウスが付き合うなんて事になったらどうしよう……」 「ね、なんでそんなにオルフェウスだけが嫌なの?……ひょっとして、オルフェウスの興味は俺だけに向いてればいいとか、そういう理由?アドルってそういう趣味、あったりする……?」 恐ろしい想像が頭の中を駆け巡る。ジェシカは恐怖に慄いた。 「あ、あるわけないだろっ!俺は単純にあのにやけ野郎が嫌いなんだっ、関わりたくないんだっ」 本当に嫌そうに、顔を歪め半ば叫ぶようにアドルが答える。 「だ、だよね。あたしもアドルにそんな趣味あったら困っちゃうし」 「ジェシカも変な事考えるよなー。でもさ、仮に俺にそういう趣味があったとして、なんでジェシカが困るんだ?」 内心ぎくりとした。そうだ、何で困るんだろう。 アドルは本当に不思議そうだ。自分も不思議だ。 「え、えーと、それよりさ、レインはもうかなり回復してたよ。あんたもゆっくり休んでちゃっちゃと治しちゃってよ」 「え、ああ」 まだ不思議そうな顔していたアドルだが、大人しく毛布を被ってくれた。 レインの言葉が脳裏に蘇る。サラの笑顔が脳裏に蘇る。 「……ないない、なんであたしがこんな奴……」 自分に言い聞かせるように小さく呟く。 ……その頬は、若干赤く染まっていたのだけど。 |