|
記憶は赤。 綺麗に綺麗に磨かれたガラスの猫にこびりついた赤。 ママが大切にしていた食器も割れてしまった。 あんなに汚すなと言われていた部屋ももう、赤い色しか見えない。 埃ひとつ落ちていなかったソファもずたずたに切り裂かれて。 何も残っちゃいないよ。 僕以外は、何も残っちゃいない。 ママ。 ああ、ママ。 どうしてそんなに冷たいの? 愛していたのに。 愛していたのにね。 殺しちゃったよ。 許しを請う声も、もう遅かったんだ。 あいしていたよ。 さようなら。 そのままママに火を点けた。 「……姉さん」 「……ん、レイス?こんな時間にどうしたの?」 「行こう、姉さん」 「どこに?」 「分からないよ。皆死んでしまった」 「どうして?」 「分からないよ」 「そう、じゃあ仕方がないわ」 「うん、仕方がない」 「お金を下ろして何処かへ行きましょう」 「うん、そうしよう」 「ねえ、レイス、その血はなあに?」 「うん?これ?ママを殺した時に付いたんだよ」 「そう。洗濯をしなきゃならないわね」 「とれるかな?この服は気に入っているから」 「さあ。とれなきゃ新しいのを買えばいいのよ」 「そうだね」 「行きましょう」 「うん」 「暑いわ」 「火がついているからね」 「全部燃えるのかしら」 「分からないよ」 「燃えてしまえばいいのに」 「そうだね」 「全部燃えたら自由になれるわ。ばいばい、さようなら」 そう言うと、姉さんは笑いながら炎の中に飛び降りた。 あはははははははは。 あはははははははははははははははは。 姉さん。 愛しているよ。 燃えてしまっても。 炭に成り果ててしまっても。 だってまだ、姉さんの笑い声が聞こえるから。 |