風の行方


「……ん」
そう声が漏れると、ゆっくりと瞳が開く。
見慣れない部屋だった。何故こんな所に?
そんな疑問が湧き上がる。まだ寝ぼけているのだ。頭がうまく動かなかない。
そこで彼女はあっさりと考える事を放棄し、もう一度ベッドに潜り込んだ。
とんとん。
だがそう決めた途端に部屋の扉がノックされる。
「……開いている。勝手に入れ」
そう言ってやると、扉が開きニースが顔を覗かせた。
「シェス、起きたのか?」
「ああ」
「そっか。じゃあ、遺跡行かないか?」
「………」
「シェス?」
「遺跡とは何の事だ?そもそもここは何処だ」
はぁ、とニースはため息をついた。
「ここはアスラ・ファエル。シェスは司祭様の治療費稼ぐ為にここに来たんだろう?」
「………」
数秒の間の後、シェスナはああ、と言葉を漏らした。
そうだ。オイゲンとかいう男の質問に答えた後にアスラ・ファエルの一通りの説明を受け、宿舎の部屋割りを決めた後にぐっすりと眠りについてしまったのだった。
「すまない。寝ぼけているようだ」
「現在進行形で?」
「ああ」
ニースはもう一度、……今度は先程よりも大きなため息をひとつ。
しかしシェスナはそんな事は気にも留めず、ベッドの脇に置いてあった槍を手に取る。
「って、行くの?遺跡」
「ああ」
「寝ぼけてるのに?」
「ああ」
その言葉に呆れ果て、ニースは肩をすくめる。今更ではあるが、彼女の行動はどうしてこうもいい加減なのだろう。そのくせ口調だけは冷静に聞こえるので性質が悪い。
「ニースはどうする?」
「行くよ。このままシェスを行かせたらどうなるか分かったもんじゃない」
「そうか」
それだけ聞くとシェスナは扉に向かい、
「痛い」
思いっきり足をぶつけていた。




部屋を出ると、隣の部屋の住人と出くわしてしまった。
「よお、お前らも遺跡に行くのか?」
確かパスカとかいう名前だったか。
自分が彼の名前を覚えている事にシェスナは少しだけ驚く。
彼女は人付き合いがあまり得意な方ではないし、物覚えも悪い。代わりに近所付き合いはニースが上手くやっていた。
子供は必ずニースに懐いたし、大人にはとても可愛がられていた。
対象的に自分は子供とはすぐに喧嘩になったし、大人には生意気な口ばかりきいていた。
ぼんやりとそんな事を思い出す。
だから自分は何も言わない方がいいだろう。そう思い、彼女は口を閉ざした。
「ああ、そうだけど」
ニースが答えると、パスカはこう申し出た。
「なあ、だったらオレも一緒に行っていいか?ほら、一人じゃ心細いしさ」
「え……」
ニースは困惑した顔で、ちらりとシェスナの方に視線をやる。
「……別に、私は構わない」
「じゃ、あとはお前次第だな。いいか?」
「ああ。俺はシェスがよければそれでいいし」
「決まりだな」
そう言い、手を差し出してくる。それをニースが握り、シェスナはそれをぼんやりと眺めているだけだった。
「じゃ、自己紹介な。来る途中で話したかもしれないけど、一応。オレはパスカ。アスロイトから来た。よろしくな」
「ああ、よろしく」
ニースが笑顔でそう答える。
「そっちは?」
「ん?」
「そっちの自己紹介もしてくれると助かるんだけど」
ああ、と慌ててニースが言う。
「俺はニース。出身国はトラドアで、目的は……シェスの暴走を止めるために」
「はあ?」
パスカはそう素っ頓狂な声を出す。
「……ニース。いきなりそんな事言ったって分かるわけないだろう」
思わずシェスナがそうツッコむと、ニースは慌てたように謝る。
「あ、そっか。悪い」
「いや、別にいいけど。……さっきの、どういう意味なんだ?」
「……まあ、それは……。多分、俺達と一緒に行動してれば分かると思うよ」
「……はぁ……」
苦々しい顔でそう呟くニースを見て、そう言うしかないパスカであった。
「……で、そっちは?」
気を取り直すようにして、シェスナの方に向く。
「ん?」
「そっちの自己紹介。あんたの名前、聞いてないし。来る途中も話さなかったしさ」
「………私がする必要があるのか?」
にべもなく告げられた言葉にパスカは虚を突かれたように目を丸くした。
「シェス」
ニースが咎めるような口調で言うと、シェスナは観念したように一度だけ目を瞑り、大きなため息を吐くとこう言い放った。
「……シェスナ。出身はニースと同じ。目的は金儲け。よろしく」
えらく無愛想な自己紹介もあったものである。
「……こいつ、いつもこんな感じなのか?」
流石に驚いたのか、パスカが小声でニースに尋ねる。
「……ごめんな、結構人見知りするタイプなんだよ。慣れればもうちょっと喋るようになると思うけど……」
「ふぅん……」
呟きながら、パスカはシェスナを不思議そうに眺める。当のシェスナは、つまらなそうにそっぽを向いていたのだけれど。
「じゃあ、とりあえず行くか?」
気を取り直したように促すパスカに、ニースが頷いたその時だった。
「おう、新入り!早速遺跡に出発か?」
「うわっ!」
扉が開き、先輩冒険者と思しき中年男が中に入ってきた。
「行くなら酒場に寄ってからにしろ。オイゲンの旦那が誰でもいいから来てくれって言ってたからよ」
「は、はぁ……。これはどうもご丁寧に……」
驚き覚めやらぬ中、何故かニースが丁寧なお礼を告げる。
「おう、礼はいらねぇよ。じゃ、確かに伝えたからな!」
言うだけ言って、男は去って行った。
「そ、それじゃあ酒場に行ってみるか?」
パスカの言葉にニースが頷き、3人は宿舎を後にするのだった。

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